第8回 星野立子賞
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昃れば春水の心あともどり 星野立子
早春の頃、日当りと日陰では体感温度がかなり異なります。誰もが知る感覚ですが、この句の措辞は独創的です。『ホトトギス雑詠句評会抄』において中村草田男は「心を春水の全面に打被せ、春水の晴陰と共に心も晴陰すると云う趣がある」と評しており、私も共感します。そして、この句も入集する第一句集『立子句集』の序に、高浜虚子は「写生といふ道をたどつて来た私はさらに写生の道を立子の句から教はつたと感ずることもあつたのである。それは写生の目といふことではなくて写生の心といふ点であつた」と記しています。掲句はまさにその「写生の心」を生かして作られています。つまり、立子は見えるものを見えるように客観写生したのではなく、目には見えない体感を「写生の心」によって表現し得たのです。私もこの「写生の心」を身につけたいと思います。
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受賞の報せをいただいた時の驚きと喜びは今でも忘れられません。自分の中の何かが崩れ去り、それに替わる何かが立ち上がった事を確信しました。所属している『泉』の藤本美和子先生をはじめ、結社の皆様、句友の皆様、周囲の皆様に、助けられたり、励まされたり、時には叱られながらゆっくりと俳句の道を歩んで来ましたが、これからはもっと学びの速度を上げなければと新たな覚悟が生まれました。世の中では次々に新しい言葉が生まれ、本来とは意味が変わってゆく言葉も沢山あります。それらを柔軟に受け入れながら、揺らがず、季語を信じて、饒舌になり過ぎない俳句を作ってゆく事が目標です。走り続ける為に、自分で自分にせっせと石炭を焚べて、どんな未来でも恐れずに進んでゆきます。
選考委員の先生方、上廣倫理財団の皆様、このような素晴らしい賞を賜り、まことにありがとうございました。
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星野立子新人賞を頂戴したのはこの文章を書いている六年前、私が二十歳の時である。なので受賞当時のことを当時の鮮度で書くことは難しいが、今改めて感じていることは、立子賞関係で多くの人と繫がることができたということだ。歴代の新人賞受賞者とは句会で繫がっており、またそのご縁で星野椿先生とも句会をご一緒させて頂けるようになった。これは本当にありがたい事と思う。
日頃お世話になっている「群青」「南風」の先生方・諸先輩方や、結社を超えてお世話になっている句友の皆様のご指導がなければこの受賞はあり得なかった。句友の皆様や選者・財団の皆様への感謝、そして受賞そのものへの感謝を今一度嚙みしめ、今後も俳句活動に邁進したい。